よく見たらそんなに安くないけれど高くないから買うカップ麺
平出奔『了解』
平出奔の第一歌集『了解』(2022年)に収められた一首です。
カップ麺は種類によりますが、大体100円から300円くらいの間で売られていることが多いと思います。値段は、麺の量によって変わったり、有名ラーメン店がコラボレーションしている場合は高くなったりします。
掲出歌はカップ麺を買うことを詠んだ歌ですが、歌意は読んだ通りでわかりにくいところはありません。
確かにカップ麺は激安という感じはあまりありません。けれども安いかといえば、何ともいえないところがあります。他の食材や弁当、あるいは外食することに比べれば高くないといえますが、カップ麺という存在に対しては安いとはいいがたいところがあるでしょう。つまり、あの内容であの値段かあ、というふうに感じる人も多いと思います。
けれども、主体はカップ麺を買ってしまうのです。ひとつは相対的な比較として値段が高くないということが理由でしょう。そしてもうひとつは、手軽ということが、ついつい買ってしまう理由になっているのではないでしょうか。
この歌において、主体はカップ麺が好きで好きで仕方ないといったことは書かれていませんし、読んだ印象としてそれほど好きそうな感じも受けません。むしろ内容と値段が相応というところでカップ麺が選ばれているように感じます。
カップ麺を食べなくてもいい生活環境にいれば、主体はカップ麺を買わないでしょう。例えば、毎日手作りの食事が提供されたり、値段を気にせず買い物できるくらいの収入があったりすれば、主体はカップ麺を積極的に買って食べようとはしないのではないでしょうか。
それはこの一首では、値段と関連づけてカップ麺が語られているからです。そこに主体の生活環境が見えるようにも思います。
難しい言葉はなく平易に書かれているように感じる歌ですが、カップ麺を買う者の状況と心情がその奥から立ち現れてきて印象に残る一首です。