次の歌の【 ① 】に入る言葉は何?
〈俺・私・僕と呼び名が変わるたび【 ① 】の位置が違う気がする〉 (大井学)
A. ほくろ
B. 鎖骨
C. 踵
D. まゆ毛
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D. まゆ毛
俺・私・僕と呼び名が変わるたびまゆ毛の位置が違う気がする
掲出歌は、大井学の第一歌集『サンクチュアリ』の一連「幻日」に収められた一首です。
自分のことを指す言葉はたくさんありますが、どの一人称代名詞を使うかは、相手は誰かや状況に左右されると思います。
掲出歌は、「俺」「私」「僕」といった言葉がそれぞれ使い分けられている場面を捉えた一首です。
主体自分の呼び名というよりも、ここでは主体が見ている相手が呼び名を変えていると採りたいと思います。つまり主体が相手を観察して気づいた歌です。
「俺」はくだけた感じなので、仲のいい人に向かって話しているときでしょうか。「私」はビジネスの場面、「僕」はプライベートともビジネスの場面とも採れるでしょう。
さて、そのように自分のことを呼び名を変えて表現している相手の顔に、主体は注目しているのです。
呼び名の違いが「まゆ毛の位置が違う気がする」へつながるところが面白いところです。
喜怒哀楽が「まゆ毛」の角度や位置に影響するのは簡単に想像できますが、「呼び名」が「まゆ毛の位置」に関わっているという見方に丁寧な視線を感じます。
ただし「違う」と断定しているわけではなく、「違う気がする」といっているあたりも気になるところで、興味深い捉え方です。
「俺」「私」「僕」というそれぞれの呼び名は、同じタイミングで同時に使われるわけではないでしょう。ある時間や日にちを経て、それぞれ異なった場面で使われるわけで、その時のまゆ毛の位置がどうだったかはミリ単位で正確に測れるものではありません。
したがって「違う気がする」なのでしょう。まゆ毛の位置が、以前は何となく上の方にあったような気がするが、今日は前より下の方にあるなあといった具合ではないでしょうか。
本当にまゆ毛の位置が変わっているのかどうかは定かではありませんが、呼び名が異なることで主体がそのように捉えたというところがユニークな一首ではないかと感じます。