次の歌の【 ① 】に入る言葉は何?
〈黙々と投げては拾ひまた投げる【 ① 】ほどに飛ばない言葉〉 (山田富士郎)
A. 折り紙
B. 砲丸
C. 蒲公英
D. 淡雪
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B. 砲丸
黙々と投げては拾ひまた投げる砲丸ほどに飛ばない言葉
掲出歌は、山田富士郎の第一歌集『アビー・ロードを夢みて』の一連「声の柩」に収められた一首です。
2024年1月時点において、砲丸投げの世界記録は23m38cm。同じ投擲競技であるハンマー投げややり投げと比べると、砲丸投げは飛距離が短い競技です。
掲出歌は、そんな砲丸投げと「言葉」とが飛距離という点で結びつけられて詠われています。
人とコミュニケーションをとる際に「言葉」は欠かせないでしょう。もちろん親しい間柄であれば、阿吽の呼吸などというものもありますが、一般的には「言葉」を費やした方が互いの理解にはつながると考えていいと思います。
しかし、この「言葉」というものが曲者で、ひとつの言葉や表現をとったとしても、自分が思っていることと相手が思っていることが全く同じであることはあまりなく、むしろ完全一致していることは珍しいといえるかもしれません。
自分の思いをより正確に相手に伝えることは殊のほか難しいことではないでしょうか。
掲出歌では、それを「飛ばない言葉」と表現しているのだと思います。
ではどのように飛ばないのかというと「砲丸」のように飛ばないのです。上句の「黙々と投げては拾ひまた投げる」というのが、砲丸投げを繰り返し行う人物の孤独さのようなものを感じさせて、実感があります。
「言葉」は砲丸のように、ある重さをもっているのでしょうが、相手に届かなければ、その重みを伝えることすらできません。重ければ重いほど相手に伝えるのは難しい、そんなことすら頭に浮かんできます。
砲丸と言葉が結びつけられた一首で印象に残ります。