〈北窓の部屋はアトリエに好いと云う 果実の色に昏れるその部屋〉という巻頭歌で始まる、鈴木加成太の第一歌集は何?
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『うすがみの銀河』
『うすがみの銀河』は2022年(令和4年)に出版された、鈴木加成太の第一歌集です。第61回角川短歌賞を受賞した連作「革靴とスニーカー」を含む、2011年(平成23年)から2022年(令和4年)の作品347首が収められています。
歌集名は次の一首から採られています。
七夕笹を母と担いで帰りし日 うすがみの銀河がさらさらと鳴る
第一章から第三章までは新かなづかい、第四章と第五章は旧かなづかいとなっています。一冊の歌集の中でかなづかいが変わるのは珍しいと思います。あとがきにもありますが、新かなづかいの歌は学生時代の実生活を背景とした歌が、旧かなづかいの歌は社会や歴史の風景を切り取った歌がその中心に詠われています。
実感としては、歌自身が選び取った仮名遣いにそのまま従ったという感覚が強い。
あとがき
かなづかいの選択においてはさまざまな理由はあるにしても、歌自身が求めるものを優先して選ばれた結果なのでしょう。
本歌集の歌は、一首一首の骨格がしっかりした歌という印象を受けます。連作の中から一首だけを抜き出した場合でも、その歌から立ち上がるイメージや雰囲気、感情などの輪郭がはっきりしている歌が多いと感じます。それが本歌集を読む心地よさにつながるのでしょう。
また身近なものや目にする景色から、星、宇宙、天体などスケールの大きなものへつなげていく歌も魅力的です。
スケールの大きなものを見る眼と同時に微細なものを見る眼ももち合わせているようです。例えば漢字の偏や旁から着想を得た歌などが所々に見られて面白く、言葉や字そのものに対する飽くなき興味が窺われます。
言葉の選択や運びから生まれた豊かな歌の世界を、存分に堪能できる一冊だと思います。
本歌集にて、2023年第67回現代歌人協会賞受賞。
『うすがみの銀河』から五首
あきかぜのプールの底は鍵・銀貨・みなみのかんむり座などが沈み
八月の空に青葉のあお満ちて〈戦争は白黒ではない〉と気づく
アパートの脇に螺旋を描きつつ花冷えてゆく風の骨格
くらやみへ沈みゆく歯のよろこびをガトーショコラも羊羹ももつ
世界が悲を母がちひさな団栗を呉れるのだやさしい子だからと言ひて