〈おそらくは僕より先に眠るだろう君の横顔バスの窓側〉という巻頭歌で始まる、永田淳の第一歌集は何?
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『1/125秒』
『1/125秒』は2008年(平成20年)に出版された、永田淳の第一歌集です。Ⅱ部構成となっており、Ⅰ部は大学生以降の歌、Ⅱ部は中学二年生から高校生までの歌が収められています。
歌集名の1/125秒とは、カメラのシャッタースピードを指しており、人間の瞬きよりも短い時間のようです。著者はあとがきで次のように述べています。
その人間の瞬きよりも短い時間、過去のある一地点にて写されうる世界が確実に存在した、ということは僕にある種の勇気を与えてくれることのように思える。
あとがき
歌集に収められた一首一首は、まさに写真に写された瞬間のように、二度と訪れない瞬間であり、記録であり、記憶のように思います。短歌として残されることで、そのときの時間は感情とともにいつでも味わうことができるのです。
本歌集にはそんな時間を感じる歌が多く収められていて印象に残りますが、著者は、時間というものに対して敏感であり、また意識的なのでしょう。歌集名のように瞬間を詠った歌、一方連なった時間を詠った歌など、時間の長さは違いますが、それは時間を意識しているからこその現れだと思います。
またバイク、自転車、ボート、釣りなどの歌、そして京都などの地名を含んだ歌も多く見られますが、これらの歌も本歌集をかたちづくっている要素となっており、時間との掛け合わせによってより深い歌群になっているのではないでしょうか。
本歌集にて、2009年(平成21年)第35回現代歌人集会賞受賞。
『1/125秒』から五首
まるで君の視覚を借りているように瞳に映る我を見ている
この人の一生は何だったろうベルトを喪服のズボンに通す
たった今明らかなことはただひとつこの二十年ほどを死んではならぬ
家内に訪いきてやげて去るものは風と呼ばれて遥けき歳月
くまぜみの翅のように世の中を透徹して見られたら嬉しい