〈会社ではあたたかいごはんをあきらめてお米を一粒金魚に落とす〉という巻頭歌で始まる、高田ほのかの第一歌集は何?
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『ライナスの毛布』
『ライナスの毛布』は2017年(平成29年)に出版された、高田ほのかの第一歌集です。
歌集名となっている「ライナスの毛布」とは、お気に入りや愛着を指す言葉で、漫画『ピーナッツ』に登場するライナス・ヴァン・ペルトがいつも肌身離さず毛布をもっていることからそう呼ばれています。一般的には安心毛布といわれる言葉です。
わたしは嬉しい、苦しい、楽しい、悲しいなどの人間の持つ感情のなかで せつない が一番好きだ。触れたいのに、どうしても触れられない背中……少女マンガは、いまなお手放すことが困難な、私にとってのライナスの毛布だ。
あとがき
本歌集の特徴にひとつとして、少女マンガ一冊を一首にした歌が、27首(27冊分)収められていることが挙げられます。子どもの頃から読んでいた少女マンガへの思い入れが現れた一連となっています。(連作「【少女漫画の短歌化】チョコよりあまい恋があるってホントですか?」)
またⅠ部として収録されている、ミカ、ユウ、シュウという3人が登場する110首の大連作「メリーゴーゴーラウンド」が圧巻です。この連作は、あとがきにある次の思いから生まれたものなのでしょう。
わたしにとって短歌を詠むことは、少女マンガの主人公の気持ちを編む作業のように思う。
あとがき
Ⅰ部の物語の歌に対して、Ⅱ部は著者の実体験に近い内容が詠われています。恋愛、家族、人生、死といったものを通して実感を伴った歌が印象に残ります。
このようにさまざまなアプローチからの歌が収められた一冊ですが、著者にとっては、それらすべてが読者にとっての「ライナスの毛布」となることを期待している一冊だと感じます。
『ライナスの毛布』から五首
くちびるがやわらかくなりいままでしらない声が「シュウ」とさえずる
あありぼんページ繰るたび飾られるわたしの胸に新しい窓
逢える日に一番綺麗になれるよう逆算しながら今日爪を切る
ライナスの毛布になって包む夜のしんしん積もる二月のひかり
突然に長くなりたる祖母の名に生きた証の一字を探す