〈もう二日メールが来ない青鷺をはじめてみたと言つたひとから〉という巻頭歌で始まる、魚村晋太郎の第一歌集は何?
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『銀耳』
『銀耳』は2003年(平成15年)に出版された、魚村晋太郎の第一歌集です。1996年(平成8年)から2003年(平成15年)までの作品303首を収録しています。
歌集名の銀耳とは白木耳の別名です。歌集名も食材に由来しますが、本歌集には、食材や食べ物が歌を立たせるものとしてところどころに登場し、それを味わうのもこの一冊を読む楽しみといえるでしょう。
また一首の完成度が高く、一首一首じっくりと味わいながら読み進めたい一冊です。
中でも、群論で知られるフランスの数学者で、決闘の末20歳という若さで亡くなったエヴァリスト・ガロアを題材とした連作「沼」が印象的です。内容は簡単に理解するのは難しいですが、まずガロアを題材にしているところが非常に珍しいでしょう。この連作はもともと「朗読する歌人たち in 千里」で朗読されたものとのことです。このあたりの経緯および「沼」の鑑賞は、巻末に掲載されている岡井隆の解説に詳しく書かれています。
言葉の使い方のやわらかさが随所に見られますが、それは言葉遣いの甘さや緩さとは一線を画すものであり、とても程度のよい言葉の心地よさを伝えてくれるように感じます。
本歌集にて、2004年(平成16年)、第30回現代歌人集会賞を受賞。
2022年(令和4年)に新装版が刊行されました。
『銀耳』から五首
去年とは月の模様が違ふ、とか あまい誤謬を信じたくなる
木苺はタルトに積まれこの雨の午後、既視感を言ふひとの声
失意にも北限はあり雨中を荷主不明の百合の貨車着く
地下の書肆で落ち合ふひとの目のなかに獰猛なまま消ゆる夕映
何もすることのない日があなたにはあつたでせうか 影と飛ぶこゑ