〈真っ白いジグソーパズル落ちており ではなくすべて花びらだった〉という巻頭歌で始まる、toron*の第一歌集は何?
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『イマジナシオン』
『イマジナシオン』は2022年(令和4年)に出版された、toron*の第一歌集です。
歌集名の『イマジナシオン』はフランス語で「想像」を意味する言葉ですが、あとがきによれば寺山修司の詩の一節から採られているようです。
歌集名の通り、想像の楽しさを味わうことができる一冊なのだと感じます。
取り上げられている題材は何も突飛なものではなく、日常の中で遭遇するものですが、その日常のものが一首の歌となるとき、そこにある飛躍を感じる歌が多くあり、惹かれます。
地球や星といった天体、また世界、過去、未来、時間といったスケールの大きなものへと展開される歌の数々は、肯定的な感情を伝えてくれますし、時に読み手に勇気や元気をも与えてくれると思います。
そう、本歌集を読んでいて苦しくなるとか悲しくなるということは少なく、読むほどにこの世はすばらしいものだと改めて実感できる、そんな印象の歌にあふれているのです。
日常を見つめる眼を更新させてくれる歌が次から次に表れるので、どんどんと次のページをめくりたくなっていきます。
新たな「想像」の世界へ読者を連れていってくれる一冊ではないでしょうか。
第32回歌壇賞の候補作となった「犬の眼線」も収録されています。
『イマジナシオン』から五首
ぎんやんまみたいに頰に触れるからしばらくわたしは静かな水面
秋日傘つつと回してここにいるわたしはわたしの地軸でいいよ
おふたり様ですかとピースで告げられてピースで返す、世界が好きだ
花びらがひとつ車内に落ちていて誰を乗せたの始発のメトロ
ねむたさに抗えないで閉ざす眼のちからで遠く咲く花がある