〈ばあちゃんの骨のつまみ方燃やし方 YouTuberに教えてもらう〉という巻頭歌で始まる、上坂あゆ美の第一歌集は何?
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『老人ホームで死ぬほどモテたい』
『老人ホームで死ぬほどモテたい』は2022年(令和4年)に出版された、上坂あゆ美の第一歌集です。
まず目を引くのは、意表をついた歌集のタイトルです。『老人ホームで死ぬほどモテたい』という歌集名はこれまであまりないような事例だと思いますが、本歌集を最後まで読めば、この歌集名となった理由がわかるようになっています。
さて、あとがきの一文を見てみましょう。
短歌をつくるとき、わたしのなかにいるたくさんの人たちや、世界に対して、殴ったり殴られたりしながら、本当の輪郭みたいなものを探す。
あとがき
本歌集に収められた歌は、どういう発想でそのような歌が生まれたのだろうかと思うような歌が多く見られます。それは奇抜な発想というものではなく、著者が人生と格闘した結果、生まれたものなのだと思います。単に言葉だけの組み合わせで歌をつくっているのではなく、「殴ったり殴られたりしながら」短歌に向き合った結果としてつくられた歌々なのでしょう。
ですから、本歌集の歌を読むと、実感というか手触りというか身体的というか、何かこう生身の人間を間近に感じるような印象を受けます。
言葉が生き生きとしており、静的な短歌ではなく、動的な短歌とでもいうべきものを感じ、次のページを早くめくりたい、そんな一冊です。
読み終えた後にはきっと、人生に向かい、人生を味わうひとりの人間像が立ちあがっていることでしょう。
『老人ホームで死ぬほどモテたい』から五首
沼津という街でxの値を求めていた頃会っていればな
ヨドバシのおもちゃ売り場で泣いている原色だったころのわたしたち
千切られたポン・デ・リングが惑星となって周りだす 始発が近づく
シロナガスクジラのお腹でわたしたち溶けるのを待つみたいに始発
何もしないひとが帰宅部となるように生きてきたのでわたしになった