〈鳥肌がかけぬけるだけほんとうのありがとうには相手はいない〉という巻頭歌で始まる、雪舟えまの第二歌集は何?
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『はーはー姫が彼女の王子たちに出逢うまで』
『はーはー姫が彼女の王子たちに出逢うまで』は2018年(平成30年)に出版された、雪舟えまの第二歌集です。
ときめきに息荒くする僕のことはーはー姫と呼ぶがおにあい
本歌集に登場する一首です。巻末の解説によれば、夢うつつの状態で得た着想「はーはー姫」を中心に展開される一冊ということです。一首一首の独立性よりも、物語をもった歌集として捉えた方がいいのだと思います。
本歌集を読んでいて感じるのは、「私」が時間にも空間にも制限を受けずにとても自由に飛び回っているという点です。動物、植物、食べ物、宇宙まで、それらは区別なく「私」と行き来し、交換可能なものであるかのように思うのです。
この世には子どもも大人もいやしない無数のただの私がいるだけ
この一首に代表されるように、「私」はあらゆる場面へ自由に行き来できる存在として表現されています。その自由さ、発想が読み進めるほどに楽しく感じられる歌集です。
現実的な日常の考え方、常識、固定観念からは理解しがたい歌が多いのですが、それらの考えを一旦手放して、書かれているままを素直に受け入れるように本歌集を読めば、この歌集に登場する歌がより魅力的に思えるでしょう。
一度目よりも二度目に読むときの方が、さらに深く本歌集に入り込めるような一冊です。
『はーはー姫が彼女の王子たちに出逢うまで』から五首
敷石の蝶を何度も舞い上げてあなたはこの町の人になる
靴ひもをむすぶ遅さも冬のうち あなたを楽しみにしています
ほの甘いバザーのカレー大盛りにされて 私 納税します
帰ったら爪を深めに切りたいな安心のただなかをあなたと
この星で愛を知りたい僕たちをあなたに招き入れてください