問題 – Question
〈父の死後十年 夜のわが卓を歩みてよぎる黄金蟲あり〉という巻頭歌で始まる、小池光の第一歌集は何?
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解答 – Answer
『バルサの翼』
解説
『バルサの翼』は1978年(昭和53年)に出版された小池光の第一歌集で、二十代後半の作品が収められています。どこか苦しさを湛えた、抒情性のある歌に引き込まれる歌集です。
歌集の題名は〈バルサの木ゆふべに抱きて帰らむに見知らぬ色の空におびゆる〉の一首からとられています。著者はあとがきでこう述べています。
このバルサのかけらでよく模型飛行機やグライダーを作った。少年期を終わるころの日々であった。集題とした理由は、その時期への郷愁といった意味あいもないではないが、多くはぼくにとって作歌するという行為が、あのバルサ材をけずり、みがき、接着していった行為とほとんど重なっていると思うからである。つまりぼくは歌を〈作って〉きたのである。歌をうたったのでも、詠んだのでもなく、歌を作ったのである。
磨き上げられた言葉から紡がれる短歌が輝かしい一冊です。1979年、第23回現代歌人協会賞受賞。
『バルサの翼』より五首
雪に傘、あはれむやみにあかるくて生きて負ふ苦をわれはうたがふ
べきべきと折る蟹の脚よもののふが甲冑を飾るこころ淋しむ
溶接の空隈なくてさくら降る日やむざむざと子は生れむとす
草の実にくさの実ふれしうしなひを急ぐものらのあかるさにして
いちまいのガーゼのごとき風たちてつつまれやすし傷待つ胸は