問題 – Question
〈かなしみの発端しろき月輪にあらず往けよと言われ往かざり〉という巻頭歌で始まる、伊藤一彦の第二歌集は何?
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解答 – Answer
『月語抄』
解説
『月語抄』は1977年(昭和52年)に出版された、伊藤一彦の第二歌集です。1973年から1976年までの作品を収録しています。
本歌集には、月、夜、雨などの言葉が多く詠まれています。歌によっては鮮やかな色などが詠み込まれたものもあるのですが、全体の印象が薄暗さを帯びており、収められた歌の多くはどこかモノトーンの印象を受けます。
自分を見つめる歌、生を見つめる歌、そして死を見つめる歌。そのような歌が中核をなしているといえるでしょう。動物や植物といった対象が登場した場合でも、その対象を通して自分を見つめているのです。
しっかりと選ばれた言葉と言い切るような言葉遣いは、ある面で硬い印象を感じますが、それは自分や生死を見つめる姿勢そのものが言葉の緩さを受け付けない結果のようにも思います。
『月語抄』から五首
火を焚けばおのれに還るかえりたるおのれを待ちて黄葉なだるる
羞しさはこころのはじめ水こえて来たる子の眼のなかの冬蝶
雨しげく降る夜言うも行うも難しとひたに米磨ぎており
動物園に行くたび思い深まれる鶴は怒りているにあらずや
静寂を求めてきしに何処よりか水の音する時計屋なりき