「三倍になる株式を見つけれる」ら抜きをやめよ迷惑メール
松木秀『親切な郷愁』
松木秀の第三歌集『親切な郷愁』(2013年)に収められた一首です。
受信を望んでいないのに勝手に送りつけられてくる迷惑メール。広告宣伝から架空請求まで、さまざまな種類の迷惑メールがありますが、掲出歌では「株式」に関する迷惑メールが詠われています。
「三倍になる株式」を簡単に見つけることができる教材か、あるいはセミナーでしょうか。形式ははっきりわかりませんが、申し込んでもらってお金を受けとるスタイルなのでしょう。販売価格は、まあそれなりにするのかもしれません。
さて、そんな迷惑メールを受けとった主体ですが、気になったのは、迷惑メールそのものが送られてくることよりも、「ら抜き」言葉の方であるところに、この歌の面白さが出ていると思います。
メールの文面には「株式を見つけれる」と書かれており、「見つけれる」の表現に文法的誤りを指摘したくなったのでしょう。
迷惑メールといえど、メールはメールであり、文章は文章として正しく表現してほしいという気持ちが少なからずあるのかもしれません。
むしろ宣伝や勧誘を目的とするのであれば、より一層細かな表現や文法に最新の注意を払うべきであり、そこを怠ると宣伝がうまくいかなくなることがあるでしょう。株式の内容には興味があったとしても、メールを読み進めていくうちに「ら抜き」言葉が出てきて、その言葉遣いが気になり、一気に興味が薄れてしまうということもあるのではないでしょうか。
迷惑メールに対して「ら抜きをやめよ」と指摘しているところが、主体の言葉に対するスタンスが表れているように感じます。
それにしても、迷惑メールはタイトルだけで判断してゴミ箱行きとなることが多い中、迷惑メールのら抜き言葉に気がつくほど文面を読み込んでいる主体の姿が浮かんできて、それはそれで興味深く感じる一首です。