メールの歌 #12

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メールの短歌

明けがたに届く迷惑メールから漏れる光で今日がはじまる
虫武一俊『羽虫群』

虫武一俊の第一歌集羽虫群(2016年)に収められた一首です。

朝の目覚めを何によって迎えるかは、その日一日の始まりとして少なからず影響があるかもしれません。

カーテンから射し込む朝日の光で目覚めるのか、目覚まし時計のアラームで目覚めるのか、あるいは誰かに直接起こしてもらうのか。このようにいろいろと考えられますが、掲出歌は少し違った目覚め方が詠われています。

それは「迷惑メールから漏れる光」によって目覚めるという、あまりうれしくない出来事から一日が始まるのです。

携帯電話やスマートフォンを枕元に置いて寝たのでしょう。アラーム機能を使って、何時に起きるか設定されていたかもしれません。しかし、そのアラームより先に、あるいは自分が起きようと思っていた時間より先に、迷惑メールが届いた状況だと思います。

迷惑メールが届くことによって携帯電話かスマートフォンの液晶画面が明るくなったのですが、明け方まだ暗い部屋において、その光は主体を目覚めさせるのに充分な光だったのでしょう。

メールはメールでも「迷惑メール」であるところが、この歌のポイントであるとともに、わずかな寂しさのようなものが滲み出ているように感じます。ただその状況を悲観しているような印象はあまりありません。

このメールが主体にとって大切な人からのメールであれば、歌から受ける印象は随分と変わっていたでしょう。

実際はこの日に、迷惑メールの後に、大切な人からのメールが届いたのかもしれません。しかし、明け方の迷惑メールの状況だけが提示されているこの歌を読むと、主体の携帯電話またはスマートフォンには、その後もそのような大切な人からのメールは届かないのではないかと思わせられます。

それは朝の始まりという、その日の方向性の決定に少なからず影響を与えるであろう一幕が「迷惑メールから漏れる光」で始まるところに、そのような思いを抱いてしまうのかもしれません。

事実を淡々と詠いながら、その日のことや主体の思いなどを考えさせられる一首です。

迷惑メール
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