朝起きて「おやすみなさい」のメール見てそれに応える日本語がない
工藤吉生『世界で一番すばらしい俺』
工藤吉生の第一歌集『世界で一番すばらしい俺』(2020年)に収められた一首です。
メールも電話もコミュニケーションをとる手段という共通点がありますが、メールは電話と大きく異なる点があります。それは、コミュニケーションをとるのに同じ時間を共有する必要がないという点です。
電話であれば同じ時間帯に話をするわけですが、メールは必ずしもリアルタイムでやり取りする必要はありません。
送信されたメールは、受け手側が開封して初めてコミュニケーションが成立するといってもいいでしょう。
掲出歌ですが、夜に送られた「おやすみなさい」という文面のメールを朝に見たという場面です。
送信した相手は寝る前だから「おやすみなさい」と送っているのですが、受け手のこちら側がそれを寝る前に受け取らなかった場合、「おやすみなさい」という言葉は本来の機能を果たせないでしょう。
朝に見た「おやすみなさい」に対して、確かに「応える日本語がない」というのもうなずけます。
寝る前用の挨拶が、時間がずれて朝に受け手に渡るというのは、メールならではです。電話ではこうはいきません。
メールというコミュニケーションツールの特徴を、ユーモアたっぷりに示してみせたところに魅力を感じる一首です。