手品の歌 #13

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手品の短歌

少しずつ嫌いに傾きゆく人に手品をわれは見せているなり
花山周子『屋上の人屋上の鳥』

花山周子の第一歌集屋上の人屋上の鳥(2007年)に収められた一首です。

手品には、カードマジック、コインマジック、ロープマジック、リングマジック、ハンカチマジック、メンタルマジック、鳩出しマジック、イリュージョンなどさまざまな種類があります。

しかし、ここで見せている手品がどんな手品であるかは書かれていません。掲出歌においては、手品の種類はそれほど重要ではなく、それよりも「手品を見せている」という状況が意味をもつのでしょう。

商売で手品をするのでない限り、通常手品を見せる相手は仲の良い人、家族、友達、恋人、同僚などであって、嫌いな相手に手品を披露することは少ないと思います。

この歌で惹かれるのは「少しずつ嫌いに傾きゆく人に」手品を見せているところでしょう。どういう経緯でどういう場面でいつ、他に誰かいたのかいなかったのか、考えれば考えるほど不思議な状況です。

嫌いに傾きゆくということは、これまでは嫌いではなかったということです。好意を寄せていたか、好きでも嫌いでもないニュートラルな状態だったか、いずれにしても嫌いではなかったのに、何かのきっかけで嫌いに傾きかけているのです。一体何があったのか、それも書かれていませんが、嫌いに至る過程を想像する楽しさがここにはあります。

また「われは」と殊更表現することで、「嫌いに傾きゆく人」と自分との立ち位置を明確に示しているようにも感じます。それはだんだんと対極の位置に離れていく二人の今後を想像させる効果があるでしょう。

手品とは「騙す」ものと捉える人も多いかもしれませんが、本来「楽しさや夢を与える」ものだと思います。ですから、手品を見た人は喜びますし、手品をする側もその反応が何よりうれしいのです。

この歌において手品はその役割を果たすのでしょうか。とにかくいろいろと想像する余地が多い一首だと感じます。

手品
手品

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