手品の歌 #12

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手品の短歌

柔らかいと思へば曲がるとスプーンをぐにやり曲げたり娘の指先
春日いづみ『地球見』

春日いづみの第五歌集地球見(2022年)に収められた一首です。

1970年代、スプーン曲げが一時話題となりました。

スプーンを撫でたり、息をふきかけたり、空中に投げ上げたりするだけで、スプーンの首の辺りがぐにゃぐにゃに曲がってしまう現象が、いわゆる「スプーン曲げ」です。

きっかけは超能力者を名乗ったユダヤ人のユリ・ゲラー。来日し、テレビにおいてフォークを曲げるパフォーマンスを行い、スプーン曲げブーム、超能力ブームが生まれました。

さて、掲出歌ですが、そんなスプーン曲げの場面を詠った歌でしょう。スプーン曲げは超能力ではなく、実際にはスプーンに細工がしてあったり、床などに押し当てて力によって曲げたり、あるいは薬物を利用して曲げたりするパフォーマンスですが、ただ曲げればいいのではなく、そのための演出がとても大切です。

この歌では「柔らかいと思へば曲がる」とあるので、そのように唱えながら、見ている側をだんだんと巻き込んでいくという演出だったのかもしれません。スプーンを撫でる動作も大切です。そのような行為を経て、ぐにゃっと曲がるからこそ、見ている側は驚きに満ちるのです。

演じる側からするとパフォーマンスであっても、見ている側からすると超能力のように見えたのかもしれません。

ただこの歌では、手品とはいい切っていませんので、パフォーマンスだと決めつけることはできません。本当に特殊な力によって「ぐにやり」とスプーンが曲がった可能性もあるからです。

そのあたりは読み手の想像に委ねられますが、ただのパフォーマンスでタネも仕掛けもあると切り捨ててしまうよりも、不思議な力によって曲げられたと捉えるほうが、ひょっとするとこの一首の世界はもっと広がっていくのではないかと考えたりもするのです。

スプーン曲げ
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