曲線どれもがあざやかになる春先の曲線として妻を見てゐる
荻原裕幸『リリカル・アンドロイド』
荻原裕幸の第六歌集『リリカル・アンドロイド』(2020年)に収められた一首です。
四季の中で「春」と聞いて想像するのは、あたたかさ、やわらかさといったイメージではないでしょうか。
ですから、「曲線」という語が最もふさわしい季節はいつでしょうか、といった問いがあったとすれば、多くの人が「春」と答えるのではないでしょうか。
掲出歌はそんな春をやわらかに詠った歌です。
「曲線どれもがあざやかになる」という表現がとても魅力的です。具体的な事物をいっているわけではなく、むしろ図形に関する用語を用いているのですが、これだけで「春先」のやわらかなイメージが思い浮かんできます。
そしてこの歌の最大のポイントは何といっても下句でしょう。
「曲線として妻を見てゐる」という表現が素敵です。
この「曲線」はもちろん体のラインといった目に見えるものも表しているのでしょうが、それ以上に「春先の」「妻」の存在そのものが、まるで「曲線」のようであると見つめているのだと思います。
妻を見つめる主体の目のやさしさ、やわらかさ、あたたかさ、愛、思いやりなど、とにかく妻に対する正の感情を思う存分感じることができるのではないでしょうか。
本当に、読めば読むほどいい歌だと感じる一首です。