駅前でもらうティッシュは二つまで もてる荷物で生きてゆきます
高田ほのか『ライナスの毛布』
高田ほのかの第一歌集『ライナスの毛布』(2017年)に収められた一首です。
駅前でポケットティッシュを配布している人の姿を見かけることがよくあります。
大抵は新規オープンの店や施設の宣伝が挟まっていたり、チラシを一緒に渡されたりします。特に多くの人々が乗降し、店の多い駅前などで配られていることが多く、実際に何度か受けとった人もいるのではないでしょうか。
掲出歌は、駅前で配布されるポケットティッシュをもらうことに触れた歌ですが、主体は「二つまで」と自分の中のルールを決めていることが窺えます。
無料配布のティッシュはもらおうとすれば、いくつももらうことができるでしょう。ティッシュを配っている人は、同じ出どころであってもなくても複数人見かけることはありますし、駅前を通り過ぎるたびにティッシュを受けとることも可能です。
しかし、主体はあえてもらう数の限定を行っています。具体的な数字が示されていること、そしてその数は一つでもなく三つでもなく「二つまで」というところに、この人がティッシュを受けとることに対する考え方、また手触りが表れているのではないでしょうか。
この上句は、下句の「もてる荷物で生きてゆきます」と呼応しているように感じます。
「もてる荷物」というのは、両手や背中で抱えられるくらいの量の荷物を指しているのでしょうか。ポケットティッシュ二つは、それほどかさばらず、また重くもありません。
ですから、ここでいう「もてる荷物」は、たくさんの荷物ではなく、むしろ必要なものだけを厳選した少なめの荷物を意味しているのだと思います。
生活する中で、モノをどれだけ抱えこむかは人それぞれです。捨てるのがもったいないと、何でもかんでも保管していたり、古くなったものでも大事に使っていたりする人がいる一方、ミニマリストやシンプリストといった用語に代表されるように、限られたモノだけで生活する人もいます。
この歌は、どちらかといえば後者の類に近い考えをもっていると思いますが、「もてる荷物で生きてゆきます」という宣言が清々しく心地よく響いてきます。
「駅前でもらうティッシュは二つまで」という、些細なことながらも非常に具体的な場面が描かれることによって、主体のスタンスがよりリアリティをもって表出されている一首だと感じます。