人生が何度あっても間違えてあなたに出会う土手や港で
千種創一『千夜曳獏』
千種創一の第二歌集『千夜曳獏』(2020年)に収められた一首です。
「人生は一度きり」とは、よく言われる言葉です。
生まれてから死ぬまでを人生と呼ぶならば、一般的に生まれる以前と死んだ後のことはわからないので、今自分のいる場所からいえることは「人生は一度きり」です。
しかし、人生が一度なのかどうかはわかりません。今生きている人生が同じように何度も繰り返されている可能性はあるでしょう。死んだ後に、再び次の人生が始まらないといい切ることはできません。
掲出歌は、このように人生が何度あったとしてもという想定からスタートしています。
”今の人生”において出会った「あなた」と、”違う人生”においても再び出会うのです。
「間違えて」には、あなたへの愛と同時に、何度でもあなたに会うことのかなしさを感じます。私とあなたとのつながりは、人生という区切りでは断ち切ることはできないのです。
新たな人生が始まったとしても、あなたを知らなくても、あなたと出会おうとしなくても、「間違えて」あなたに出会ってしまう。なんと美しくかなしい一首なのかと感じます。
「土手や港」は、どこか宇宙の果てにつながるようなイメージをもたらしてくれる場所だと感じさせてくれます。
「あなた」と出会うのは、”今の人生”で何回目なのでしょうか。
無数に繰り返される出会いにおいても、”今の人生”での出会いはたった一度の出会いとしてかけがえのないものであることを、この一首は表現しているのではないでしょうか。