秋日傘つつと回してここにいるわたしはわたしの地軸でいいよ
toron*『イマジナシオン』
toron*の第一歌集『イマジナシオン』(2022年)に収められた一首です。
生きていく中で、自分と他の人を比べてしまうということは少なからずあるでしょう。そして自分より相手の方が優れている、恵まれていると思うこともあります。
また自分がどうありたいか、どうしたいかではなく、相手がどう思うか、どう見えるのかを優先して日々を過ごしている人もいるかもしれません。自分軸、他人軸という言葉がこれに当たります。
人はひとりでは生きていけず、絶えず誰かとの関係の中で生きていくことになるのですが、そのときに他人との比較ばかりしていたり、自分軸ではなく他人軸ばかりを重要視していると、とても生きづらくなるのではないかと思います。
掲出歌は、そんな生きづらさを抱えている人にこそ知ってほしい歌です。
この一首は自分軸を全面肯定した歌といえるでしょう。
「わたしはわたしの地軸でいいよ」のフレーズが何ともやさしく語りかけてくるではありませんか。「地軸」という言葉がスケールの大きさを表していて、地球の地軸の少し傾いた感じ重なります。この軸の傾きは、「秋日傘」を差したときの中棒の傾きとも呼応しているでしょう。
上句も魅力的で、特に「つつと回して」の「つつ」というオノマトペが何ともいえない軽やかさを与えてくれます。
秋日傘を回す行為、ここにいること、そしてわたしはわたしでいいという肯定。これらすべてがつながって、一首は読者の存在を、ただそこにいるだけでいいことを認めてくれているような印象を受けます。
この一首を読むたびに、自分の存在を認めること、そして自分はどうありたいのかということを振り返らせてくれ、忘れがたい一首です。