いつだって誰かのために生きていて誰かの期待にそって振る舞う
石井僚一『・』
石井僚一の電子版歌集第二弾『・』(2021年)に収められた一首です。
生きていれば、多からず少なからず人と関わりをもたないといけないものでしょう。
自分ひとりで生きていくと決意してみても、やはり人との関係は避けられない部分はあるわけで、「誰かのために」というわけではなくても、「誰か」を意識していかざるを得ません。
主体はこれまで何度も「誰かの期待にそって振る舞う」経験をしてきたのでしょう。
子どもの頃から、人の役に立つように生きなさいといわれてきたり、自分のことよりも人を優先しなさいといわれてきたり、そういったことも数々あったのかもしれません。
そのような言葉に絡めとられてしまった環境では、「誰かの期待」が優先されてしまうことも仕方のないことでしょう。
しかし、主体は本当に心の底から「誰かの期待にそって振る舞う」ことを望んでいるのでしょうか。この歌からはどうもそのような肯定的な印象を感じないのです。
それは「いつだって」という初句の入り方、「誰か」の繰り返し、一首全体を通しての起伏のなだらかな感じがそのように思わせているのかもしれません。
「誰かのため」を自分が本当に望むのであれば、それはすばらしいことで「誰かのために」生きていくことがその人自身の活力になるのでしょう。しかし、反対に「誰かのために」を心の底から望んでいない、周りの雰囲気やそのときの状況、あるいは見栄や体裁などから「誰かのために」を進めているのであれば、それは本当に自分自身を生きているということにはならないのではないでしょうか。
「誰かのため」や「誰かの期待」というのは非常に厄介なものですが、「誰かの期待」に沿って生きるよりも、自分がどう振る舞いたいのかをもう一度考えてみる必要があるのかもしれません。それが誰かの期待と合致するのであれば素敵なことですが、仮に誰かの期待に合わなくても自分を生きるという点においては、それでいいのではないでしょうか。そんなことを考えさせられる一首です。

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