少し軽く生きんとおもう餡ぬきの饅頭のような雲浮くかなた
杉﨑恒夫『パン屋のパンセ』
杉﨑恒夫の第二歌集『パン屋のパンセ』(2010年)に収められた一首です。
自分の人生をどのように捉えて生きるのかは人それぞれかもしれませんが、重たく見つめて生きるのか、それともあまり重たく考えずに生きるのか、さまざまあるでしょう。また時や状況によっても、その捉え方は変わっていくでしょう。
掲出歌は「少し軽く生きんとおもう」と始まります。
主体は、それまで「軽く」は生きていなかったのでしょう。それがふとしたことをきっかけに、自分は少し重たく考えすぎて生きていたのだと気づいたのではないでしょうか。そして、その生き方が少ししんどく感じてしまったのかもしれません。
それが「少し軽く生きんとおもう」という、心底からのフレーズとなって現れたように感じます。
三句以降は「少し軽く生きんとおもう」を象徴するような状況が展開されます。
一般的に大抵の「饅頭」には「餡」が入っていると思いますが、ここで登場するのは「餡ぬきの饅頭」の喩えです。饅頭において、周りの皮よりも中心の餡の方が重たいでしょう。その重たい餡が抜かれた饅頭は、すでに饅頭とは呼べないかもしれませんが、一応饅頭と呼ぶとすれば、軽々とした饅頭になっていることでしょう。
彼方に広がる光景は「餡ぬきの饅頭のような雲」が浮いています。それは暗く重たい雲ではなく、明るく軽い雲でしょう。ふわふわと風に乗って、どこまでも飛んでいきそうな雲も想像できます。
その軽い雲と自分を対比させたとき、自分の生き方はどうも重たく感じられたのではないでしょうか。何かに固執していたのかもしれません。
雲の光景は、まさに「少し軽く生きんとおもう」をそのままに表しているように思います。
初句二句のストレートで素直な物言い、そして「餡ぬきの饅頭」という比喩が光る一首だと感じます。