運転手も家族もみんな立っている人生ゲームの外車の静けさ
笹公人『念力ろまん』
笹公人の第四歌集『念力ろまん』(2015年)に収められた一首です。
「人生ゲーム」は1968年に初代版が発売されて以来、進化を続けながらロングセラーとなっている国民的ボードゲームです。
おそらく、一度は人生ゲームをやったことがあるという人が多いのではないでしょうか。掲出歌は、そんな人生ゲームのコマに注目した珍しい歌です。
人生ゲームのコマは車のかたちをしており、ピンを差せる穴がいくつも開いています。まず運転手として自分ひとりのピンを差した状態でスタートします。そしてゲームの途中の結婚や出産といったイベントで家族が増えていくたびに、コマの穴に家族のピンを差していきます。
いわれてみると、ピンはまっすぐな形状で「立っている」ようにも見えます。通常そのようなところに目はいきませんが、この歌では人生ゲームに登場する人たちすべてが「立っている」という共通点を見出しているのです。
誰ひとり座らずにスタートからゴールまで、つまり人生の最初から最後までを立ったまま進んでいく姿が浮かびあがってきます。
そして自分および家族の乗った車は「静けさ」に満ちているのです。人生ゲームではとんでもないイベントが発生し、浮き沈みも激しい展開が待っていますが、そこを駆け抜けていく車だけは始終変わらず静かなまま淡々と進んでいくのでしょう。
その姿は、人生は人生ゲームとは異なるものであることを改めて認識させてくれるのではないでしょうか。
人生ゲームに人生を重ね合わせることはできても、やはりゲームと生身の人生とはまったく別物であるでしょう。「外車の静けさ」がそう物語っているように感じる一首です。