先輩は碁を打ちながらメントスを頰ばっていてとても神様
柴田葵『母の愛、僕のラブ』
柴田葵の第一歌集『母の愛、僕のラブ』(2019年)に収められた一首です。
囲碁で、勝負の最中にメントスを頰ばりながら打つ人は一体どれくらいいるでしょうか。
この歌は「碁」と「メントス」という取り合わせが斬新で、伝統ある囲碁のイメージを変えるような歌だと思います。何となく碁石とメントスの形状も似ているように思えてきます。
さて、メントスを頰ばって碁を打っているのは「先輩」です。その先輩は「神様」と詠われているのです。だた、この「神様」という表現ですが、どのあたりが神様なのかというのはなかなか捉えるのが難しいようにも思います。「先輩」「碁を打つ」「メントスを頰ばる」など様々考えられますが、どれも単体では「神様」というだけの存在や行為ではないように感じます。しかし「先輩×碁×メントス」の掛け算になれば、この状況というのは非常に稀な状況であり、その状況こそが「神様」といわしめたのではないでしょうか。
また「とても神様」の「とても」という表現が挿し込まれているところも、歌の流れに変化が生まれているように思います。「神様みたい」といった収め方ではなく「とても神様」なのです。「先輩×碁×メントス」の状況をより一層「神様」へ近づけていると感じさせる表現です。
ただの好意とも愛情とも敬意とも、何とも限定できないような感情がこの歌には込められているように感じます。ただし詠われている状況が「神様」であったということは確かであり、その思いこそがこの一首が生まれた源であるのでしょう。
細部がはっきりと読めないところはありますが、一度読むと忘れられないとても気になる一首です。