短歌をつくってみたいんだけど、どうやってつくっていけばいいのかなあ!? 基本からわかりやすく説明してくれる本はないかなあ?
短歌に興味を持ち始めてしばらくすると、自分でもつくってみたくなります。しかし、どうやって始めればいいのか、あるいは短歌の細かなルールなどが最初のうちはわからないものです。そんなとき、基本からわかりやすく説明してくれる入門書、また読み進めやすい入門書は、これから短歌を始める人にとって最適な一冊となるでしょう。
入門書といっても堅苦しい解説が続く本では読んでいて楽しくありません。短歌の基本を学ぶことができ、なおかつ読んでいて楽しい一冊ということで、今回は横山未来子さんの『はじめてのやさしい短歌のつくりかた』を見ていきたいと思います。
これから短歌を始めるという人はぜひ当書に触れて、最初の一首をつくってみてはいかがでしょうか。
当書のもくじ
まずは『はじめてのやさしい短歌のつくりかた』のもくじを見てみましょう。
名歌を味わう
はじめに
本書の特徴
第1章 短歌づくりの基本を学びましょう
- 基本形からリズムを感じましょう
- 音数のかぞえかたを覚えましょう
- 字余りと字足らずの短歌
- 文語と口語とは
- よく使う文語文法を知りましょう
- 旧かなづかいと新かなづかいとは
- ルビ(読みがな)をつけてみましょう
- さまざまな結句のおさめかた
- 推敲を行いましょう
column1 短歌づくりに必要なもの
第2章 自分らしく短歌を詠んでみましょう
- 詠む対象をよく見つめましょう
- 自分らしいことばを選びましょう
- 説明的にならないようにしましょう
- 個性的な比喩を考えましょう
- ことばのリズムを工夫しましょう
- ことばの表記を意識しましょう
- 固有名詞を生かしてみましょう
- オノマトペを効果的に使いましょう
- イメージがふくらむ表現を探しましょう
- 短歌の楽しさが広がる題詠と連作
- 枕詞・序詞・詞書について
column2 さらに短歌を楽しむために
第3章 テーマを決めて詠んでみましょう
- 自然を詠んだ短歌
- 日常の感動や家族のようすを詠んだ短歌
- 仕事や社会を詠んだ短歌
- 恋愛(相聞)の思いを詠んだ短歌
- 旅先の風景や旅情を詠んだ短歌
- 身近ないきものを詠んだ短歌
- 人間らしいユーモアを詠んだ短歌
- 死を詠んだ短歌
- 人生を感じる老いを詠んだ短歌
column3 時代の短歌と新しい短歌の形
第4章 添削で短歌をレベルアップさせましょう
- 対象を見つめ表現を工夫しましょう
- 推敲してことばを整理しましょう
- ありきたりの表現は避けましょう
- 説明しすぎないようにしましょう
- 五感をことばで表現しましょう
- 結句の形を工夫してみましょう
- リズムを意識してみましょう
- 文語と口語に注意しましょう
おわりに
大きく4章に分かれています。第1章では短歌の基本ルールを学び、第2章で実際に短歌を詠んでいきます。第3章ではテーマ別に名歌が紹介され、それぞれのつくりかたのポイントが解説されています。最後の第4章では、添削実例を取り上げながらよりよい短歌となるようレベルアップを図ります。
自分が疑問に感じていること、またもっと知りたいと思うことがこのもくじの中に入っていないでしょうか。いままで短歌をつくったことのない人も、当書を読み終えるころには短歌の基本を理解し、短歌を詠めるようになっていることでしょう。そして自分のつくった短歌を推敲してもっといい一首にしたい、そんな気持ちが湧いてくるのではないでしょうか。
おすすめのポイント
それでは、当書の特長やおすすめのポイントを順番に見ていきます。
冒頭の28首
当書はいきなり短歌の基本ルールから始まるわけではありません。まず「名歌を味わう」と題して、28首の有名な短歌が取り上げられているのです。そして一首一首には著者の短評が添えられています。短歌のつくりかたを見ていく前に、まずは名歌に触れてもらおうという思いが伝わってきます。例えば次のような作品が引かれています。
白い手紙がとどいて明日は春となるうすいがらすも磨いて待たう (斎藤史『魚歌』)
ああ君が遠いよ月夜 下敷きを挟んだままのノート硬くて (永田紅『日輪』)
トルソーの静寂を恋ふといふ君の傍辺に生ある我の坐らな (栗木京子『水惑星』)
君かへす朝の敷石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ (北原白秋『桐の花』)
病む我の昼餉の蜜にかよひくるミツバチよ今日は早すぎたね (相良宏『相良宏歌集』)
著者が選ぶ名歌を頭に置きながら、これから短歌を詠んでいけるという構成です。これら28首はいつでも冒頭に戻って振り返ることができるようにページが組まれている点も優れているといえるでしょう。
豊富な実例
各節の最初には、その内容または技法に関連する短歌一首が提示されるというつくりになっています。
例えば、第1章の第1節「基本形からリズムを感じましょう」では、若山牧水の〈白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ〉がまず示され、定型詩、区切れ、リズムといった内容が丁寧に解説されていきます。その過程で引用される短歌は、この牧水の歌以外に9首にものぼります。
実例を見ながらリズムを身につけることができ、同時に各節の内容に関する多くの短歌の中から自分の好きな歌を見つけることができます。実例が多いため、自分の好みの短歌に出合う可能性が高まります。
読み仮名がつけられている
入門書において、意外に大事なのは「読み仮名」がつけられているかどうかです。特に学び始めであれば、専門用語の正しい読み方に迷う場合があります。
例えば「上の句」という言葉、「うえのく」なのか「かみのく」なのか。正しくは「上の句」ですが、これも知らなければ迷ってしまうかもしれません。他にも「定型詩」「初句」「長音」など、短歌に親しんでいる人には当たり前と思える言葉でも、丁寧に読み仮名が振ってあります。
著者は長年短歌を詠みつづけてきた歌人でありながらも、短歌を始める人の気持ちに寄り添うように、初学者の目線に立ってこの本は書かれているのです。
自分らしく詠むためのコツが書かれている
短歌の基本ルールを理解し、言葉を五七五七七に乗せれば、一応短歌のかたちにはなります。しかしそれは、かたちの上では短歌であっても歌としていい一首になっているかどうかはまた別の問題です。
第2章では、自分らしく詠むためのコツがいくつも取り上げられています。それはただ単に「技法」の紹介ではありません。どうすればよりよい一首になるかという視点から、読者にヒントやきっかけを促す内容となっています。この章には以下のようなコツがピックアップされています。
- ものをじっくり観察し表現する
- あたりまえのことを別の角度から表現する
- 読み手に想像の余地をのこす
- 比喩はものごとを印象的に伝えるもの
- 固有名詞は歌のイメージをふくらませる
- 個性的なオノマトペを考えてみる
また第3章ではテーマ(題材)別に歌のポイントが述べられ、こちらも詠むためのコツに触れられているといっていいでしょう。
豊富な実例もよりよい歌とは何かを考える助けとなり、当書において第2章と第3章が読み応えのある部分となっています。
40首の添削実例
第4章は40首もの添削実例が掲載されています。原作と添削例を比較することで、どこがどう変化したかを実例を通して見ていくことができます。解説を元にして、添削の意図やポイントをつかんでいく訓練になります。
例えば、「推敲してことばを整理しましょう」の節においては次のような添削例が示されています。
(原作) 遅刻して朝走る人の足音だけが電車に飛び乗る
(添削例)朝八時階段駆けてくる人の足音だけが電車に飛び乗る
これは第1章の「推敲を行いましょう」の内容に関連した添削例となっています。このように、第1~3章で見てきたことと関連するかたちで40首の添削例が取り上げられている点も、理解を深める上で効果的でしょう。
まとめ
『はじめてのやさしい短歌のつくりかた』を読むと得られること
- 初学者に寄り添った丁寧な解説と説明で、短歌の基本ルールを学ぶことができる
- 豊富な実例が掲載されており、多くの短歌を知ることができる
- お気に入りの短歌が見つかる
- 添削例やテーマ別ポイントを通して、よりよい一首にするためのコツがわかる
当書は、これから短歌をつくりたいと思った人に特におすすめの一冊です。またすでに実作をしている人にとっても、豊富な実例やコラムなど、振り返る意味でもためになると思います。
書籍・著者情報
書籍情報
著者 | 横山 未来子 |
発行 | 日本文芸社 |
発売日 | 2015年9月30日 |
著者プロフィール
1972年東京生まれ。通信教育で短歌を学び、1994年に短歌結社「心の花」に入会。佐佐木幸綱氏に師事する。1966年「啓かるる夏」30首で第39回短歌研究新人賞受賞。2008年、第三歌集『花の線画』(青磁社)にて、第4回葛原妙子賞受賞。対象をみつめる観察力と鋭い言語感覚には定評があり、端正な文語体の歌風は同世代の歌人のなかでも際立った存在感を放つ。2011年からは短歌総合誌「短歌研究」にて、読者の投稿作品の添削を担当。その他の歌集に『樹下のひとりの眠りのために』『水をひらく手』『金の雨』(すべて短歌研究社)がある。
(当書著者略歴より)