エレベーターの歌 #4

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エレベーターの短歌

滑らかにエレベーターは上下して最後までビルを出ることはない
松村正直『駅へ』

松村正直の第一歌集駅へ(2001年)に収められた一首です。

この歌で詠われていることは、ごくごく当たり前のことであり、当たり前すぎて普段そのことに意識を向ける人は少ないのではないでしょうか。

しかし、その当たり前がこの歌のように短歌一首として詠われた場合、一首の内容が何か核心をついたことのように思えてくるのです。

まず「滑らかに」ですが、乗り心地を考えると滑らかに動くのがエレベーターにとって大前提であり、ぎくしゃくしたエレベーターというのはあまり見たことがありません。

次に「上下して」ですが、エレベーターの目的を考えると下階と上階とを簡単に移動できるという点が最も大切な点であり、改めて「上下して」と表現されなくても伝わりますが、あえて「上下して」という言葉で表しているのだと思います。

左右に動くエレベーターというのは存在するのでしょうか。もしあったとしても、それはエレベーターと呼ばないのではないかと思ってしまいます。

そして下句の「最後までビルを出ることはない」は、確かにその通りで、一度設置されたエレベーターがその場所を自由に動くということはありません。ビル内に設置されたエレベーターは、そのビルが存続する限り、あるいはエレベーターが壊れて交換されるまで、ビル内にずっと存在することになるでしょう。

このようにいわれてみれば当たり前に思えることが歌として提示されるとき、今まで気づきもしなかった”当たり前”に改めて気づかされる、そんなふうに感じます。

この歌を読んだとき、最後までビルを出ることはないエレベーターに対して、どのような思いを抱くのか、それは読み手それぞれによって異なるかもしれません。あまりにも滑らかな動きに対して、場所という点についての自由度は全くないことによるある種のさびしさを感じるのか、あるいはその場所を一歩も動かずにひたすら上下を続けることに対して矜持のようなものを感じるのか、色々と感じ方はあるでしょう。

ただひとついえることは、この歌に詠われているような視点でエレベーターを見たことがなかった人たちにとって、この一首を知ることは、エレベーターを見るときの視野角をわずかに広げてくれるのではないかということです。

“気づかされる”というのは、短歌を読むときの楽しみのひとつなのではないかと思います。一見当たり前のようなことでも、改めて気づかせてくれる、そんな楽しさをこの一首は読み手に与えてくれるのではないでしょうか。

エレベーター
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