エレベーターの歌 #2

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エレベーターの短歌

エレベーターわが前へ昇り来るまでを深き縦穴の前に待ちをり
田村元『昼の月』

田村元の第二歌集昼の月(2021年)に収められた一首です。

エレベーターの用語では、人や荷物を載せる箱のことを”かご”というようです。

エレベーターという構造において、エレベーターを待っているときに人が利用するのがかごであり、普段のケースにおいて、かご以外を意識することはあまりないのではないでしょうか。

それは、エレベーターの扉は目的階にかごが到着するまでは閉ざされており、エレベーターの扉が開くときはいつでも向こう側にかごがあるため、扉の向こう側にかご以外の構造を通常見ることはないからでしょう。

しかし、掲出歌では、主体は扉の向こう側の様子をありありと浮かべています。

自分が待っている階よりもかなり下の方にかごがある状態なのでしょう。下階から上階までかごが昇ってくる状況ですが、かごが昇ってくる空間に注目し、その縦長の空間を「深き縦穴」と表現したところがこの歌の見どころだと思います。

「深き」ですから、高層ビルかタワーマンションといった場所を想像するのが、より一層深さが強調され、ふさわしいかもしれません。

扉によって、「深き縦穴」は隠されているわけですが、もしもかごが到着する前に扉が開いていたとしたら、そこには確かに深い縦長の空間がたちまち現れるでしょう。

エレベーターの定期点検などにおいては、点検者は「深き縦穴」において点検作業を進めていくわけです。

日常使用する際、扉が開きっぱなしであれば、場合によっては転落する可能性もあるわけです。扉一枚が正常に動作しているから、人は「深き縦穴」に転落することはありませんが、たった一枚の扉を境界として、かごを待つ人と「深き縦穴」が向かい合っているのは、危ういといえば危うい状況でしょう。

そのような危うさを内包しながらも、扉があることで転落することはないという安心感をもって、主体は「深き縦穴」の前に待っているのだと思います。

エレベーターを利用するとき、全体像を知らないまま、かごという一部分だけを見せられて乗り降りしている我々に改めて気づかせてくれる一首だと感じます。

エレベーター
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