太陽の無数の命生む力無数の命滅ぼす力
香川ヒサ『ヤマト・アライバル』
香川ヒサの第八歌集『ヤマト・アライバル』(2015年)に収められた一首です。
地球に生きる生き物にとって、太陽はなくてはならない存在です。人間も動物も植物も、太陽なくして育つことはできず、もしも太陽がなければ、地球はあっという間に凍りついてしまうでしょう。
掲出歌は、太陽の力に注目した歌ですが、その力には二面性があることを詠っています。
ひとつは「無数の命生む力」、もうひとつは「無数の命滅ぼす力」です。
一つ目の「無数の命生む力」は冒頭でも触れた通り、太陽があるからこそ地球上の生物は生きていくことができる、太陽があるからこそ新たな命が生まれるという正の側の力でしょう。地球が誕生してから、まさに無数の命が生まれて育ってきたことが想像できます。
もうひとつの「無数の命滅ぼす力」は、太陽の力を過度に受けてしまうとその力の大きさがゆえに、生物は滅ぼされてしまうという、そのような力のことでしょう。
紫外線を浴び続けると日焼けしたり、シミになったりするという非常に身近な例を見ても、太陽の力の強さを感じます。熱帯地域において日除けのない場所で人間が何時間も太陽の熱に晒されると、それこそ生死に関わるでしょう。またイカロスが太陽に近づきすぎて、蠟の翼が溶けて墜落死したエピソードなども思い出されるのではないでしょうか。
記録としては残っていなくても、これまでに太陽の力によって無数の命が絶えていった歴史があるのでしょう。
太陽の力は適度に受ければ、大変有益なものとなりますが、まったく太陽の恩恵に預かれないか、反対に太陽の力の影響を過剰に受けてしまうと、それは生物を殺すことにもつながります。
端的に二つの力を並べている構成の歌ですが、太陽の力の正負の両面、そして太陽に関わって生きている地球上の生物の生と死、地球誕生以来の長い時間などを表されていて、スケールの大きさを感じとれる一首ではないでしょうか。