照らされた無数のほこりしばらくは息をするのを我慢してみる
木下龍也『つむじ風、ここにあります』
木下龍也の第一歌集『つむじ風、ここにあります』(2013年)に収められた一首です。
部屋の中にいるとき、窓からの光で、急に「ほこり」が照らし出されることがあります。大抵の場合、空中に舞うほこりは目に見えないため、普段は意識していませんが、目に見えるようになると、ほこりの存在が気になり出します。
それも数えられる程度のほこりではありません。まさに「無数のほこり」が、いま自分がいる空間に舞っていたのだと気づくのです。
ほこりが舞っていても全然気にならないという人もいると思いますが、自分が過ごす空間に無数のほこりが舞っているとあまりいい気分がしない人が多数だと思います。
ですから、そのほこりを吸わないように「しばらくは息をするのを我慢してみる」のでしょう。
ほこりが見えてなければ、何も気にせず当たり前に息をしていたのに、ほこりが見えてしまったがために、急に呼吸するのが嫌になってしまったのだと思います。それはほこりを吸わずに息をすることができないからでしょう。
なるべくほこりを吸わないように息するのを試みるのですが、だんだんとそうすることは難しいことに気づいていくでしょう。「しばらくは」にそれがよく表れていると思います。
結局は、ほこりを吸って息をするしかないとなっていくのです。
ほこりは、照らし出さなければ存在しないのと同義であったかもしれませんが、照らし出されたがゆえに、主体にとってその存在が意識されてしまい、そのためにほこりを意識した呼吸へと行動を変えていった、しかしやがてほこりを吸って呼吸するしかないという考えに到った、そのような経過にこの歌の面白さがあると思います。
無数であるがゆえに避けようのないほこりと主体の気持ちの変化がよく表れた一首ではないでしょうか。