かがやける花、花、花、野、黄金の家への道は無数にひとつ
早坂類『黄金の虎』
早坂類の歌集『黄金の虎』(2009年)に収められた一首です。
「黄金の家」を文字通り受け取れば、金色に輝く高価な家のようなイメージとなりますが、ここでは何かの喩えとしての「黄金の家」なのかもしれません。
例えば、主体が目指す理想の場所、目的地が「黄金の家」として表現されているように思います。
「黄金の家」へ向かう道はどうやらはっきりと示されたものではなさそうです。「無数にひとつ」とある通り、「黄金の家」へたどり着くためには、無数にある道のうちのどれかひとつを正しく選択して歩んでいかなければならないのでしょう。
無数の道の、残り数多の道では「黄金の家」へたどり着くことができません。たったひとつだけ「黄金の家」へたどり着ける道があるのです。
その道は「かがやける花、花、花、野、」の中にある道なのでしょう。花野のような光景をイメージしましたが、厳密には花野とは少し異なるのかもしれません。それは「花、花、花、野、」という独特の表現から、花野といった一面ひと続きの野ではなく、ひとつひとつの花をあきらかに認識している世界を思い浮かべるからです。
花野と一括りにするのではなく、眼前に広がる光景は「花」は「花」、「野」は「野」とそれぞれの存在の輪郭を丁寧に提示しているように感じます。
そのような「花、花、花、野、」に、無数の道が、いや道とは呼べないような、はっきりしない道もあるのでしょうが、とにかく「黄金の家」に到る道があることだけは確かなようです。
主体は「黄金の家」へ到る道を確実に選んで進んでいくことができるのでしょうか。「黄金の家」へ到る道があることを確信しているような主体がここにはあり、その確信をもっていること自体、すでに「黄金の家」へたどり着いたも同然なのかもしれません。
「かがやける」「花」「黄金」といった言葉の展開によって、明るく光あふれるようなイメージが続いていく、そして「黄金の家」へつながる道がぱあっと照らし出されるような、そんな印象を抱く一首です。
