ハニカムの形のベンチが無数ありどうやって座るのか分からない
九螺ささら『ゆめのほとり鳥』
九螺ささらの第一歌集『ゆめのほとり鳥』(2018年)に収められた一首です。
「ハニカム」とは蜂の巣を意味する言葉ですが、蜂の巣はその穴のひとつひとつが正六角形でできていることから、「ハニカムの形」とは正六角形を意味しているでしょう。
正六角形のベンチがいくつも組み合わされて並べられ、その組み合わせ方も数もさまざまであり、配置の仕方もバラエティにとんだ状態である場面が浮かびます。実景か想像かはわかりませんが、結果として、ハニカムの形のベンチはそこに無数に存在していたのでしょう。
面白いのは下句の「どうやって座るのか分からない」というところです。
ベンチや椅子というものは、大抵前後左右の向きがあり、どちら側から座るというのが決まっています。背もたれがあったり、ひじ掛けがあったり、長さも縦と横で異なっていたり、どこに座ればいいか迷うことはあまりありません。
しかし、このハニカムの形のベンチは背もたれもないでしょうし、正六角形の集合であることから、どちらが前か後かということも判断しかねるでしょう。
「どうやって座るのか分からない」というのは確かにその通りに感じる人が多いと思いますし、そのわからなさをはっきりとストレートに詠っているところに主体の気持ちが思う存分出ているように感じます。
ハニカムの形の無数だからこそ生み出された一首だと思います。
ポチップ