あかあかと腕に無数の湿疹のひとつぶひとつぶが痒がりてゐる
西村美佐子『猫の舌』
西村美佐子の第三歌集『猫の舌』(2005年)に収められた一首です。
体に湿疹ができると痒くてついつい搔いてしまいますが、この歌は腕にできた「無数の湿疹」を詠んでいます。
「あかあかと」「無数の」から、この湿疹の痒さが伝わってくるようです。
注目したいのはやはり下句の「ひとつぶひとつぶが痒がりてゐる」という表現です。
湿疹全体が痒いという大ざっぱな捉え方ではなく、湿疹の「ひとつぶひとつぶ」に意識を向け、「ひとつぶひとつぶ」の痒さが打ち出されているように思います。「痒がりてゐる」という表現も、まるで湿疹ひとつぶひとつぶが意思をもっているかのようないい方で、皮膚感覚のうごめくような印象が表れているように感じます。
上句では「無数」という数えられない状態が提示されながら、下句ではそれら無数の湿疹の「ひとつぶ」に焦点が当てられている構成で、この対比も見事に決まっているでしょう。
「無数」でありながら同時に「ひとつぶ」であるという、数の両極端が巧みに提示され、湿疹の痒さが手触りをもって伝わってくる一首ではないでしょうか。
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