補色の歌 #6

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補色の短歌

宵宮の赤い光と草むらの夏の緑のなかに逃げ込む
五島諭『緑の祠』

五島諭の第一歌集『緑の祠』(2013年)に収められた一首です。

宵宮とは、本祭の前夜に行う祭りを意味します。

神社などで行われる前夜祭の夏の夜、暗闇に浮かぶ提灯や灯籠などに灯る赤い光が浮かんできます。神社がたたずむ自然の多い場所において、草むらの緑が赤い光の対比として登場します。草むらの緑が描かれることで、宵宮の赤い光がより一層色濃さをもって眼前に浮かび上がってくるようです。

さて「逃げ込む」のはいったい誰なのでしょうか、そしてなぜ逃げ込むのでしょうか。

掲出歌は「ノルウェーに持って行ったノートから」というノルウェーへの旅を題材にした一連の一首です。掲出歌の前の歌は〈てのひらが冷たい夜を道なりにスイマーズハイ、スイマーズロー〉です。

前歌と合わせて読むと、泳ぐように夜の道をたどってきた末に「宵宮の赤い光と草むらの夏の緑」の中に逃げ込んだと捉えることができます。

掲出歌一首だけ見ると日本の景を浮かべてしまいますが、この一連はノルウェーが舞台となっていますので、この「宵宮」が日本の神社の宵宮と限定することはできません。

ですからこの「宵宮」は本来の意味での前夜祭かもしれませんし、あるいは夜の道から逃げ込める場所にある何かの建物を喩えていっているのかもしれません。

掲出歌一首だけを読んだときと、一連の中で前歌と合わせて読んだときでは、場面も受け取り方も少し変わりますが、赤と緑という補色の色濃さだけは存在感をはなっていることは確かなことのように思います。

宵宮
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