キットカットのかけらを運んでゆくぼくは蟻だとおもう蟻だあねぼくら
斉藤斎藤『渡辺のわたし』
斉藤斎藤の第一歌集『渡辺のわたし』(2004年)に収められた一首です。
「キットカット(KITKAT)」はネスレから発売されている人気のチョコレート菓子です。
さて「キットカットのかけらを運んでゆく」とはどういう状況でしょうか。テーブルや床に落ちている欠片をゴミ箱に捨てるといった場面でしょうか。
そんな欠片を運んでいく自分を「蟻」だと見ているわけです。実際、小さな欠片は蟻が運ぶこともあるでしょう。
「蟻だとおもう」のところでの視点は、第三者からの視点として捉えているように感じます。そして結句の「蟻だあねぼくら」のところでは第三者の視点から、再び自分自身の主体としての視点に戻っているのでしょう。
「ぼく」から「ぼくら」への移行も注目すべきところで、自分のみならず、属する社会の状況へ展開しているようです。
「キットカットのかけらを運んでゆく」というのは、あるいは何かの喩なのかもしれません。「ぼく」や「ぼくら」を卑下するわけではないのでしょうが、どこか拗ねた感じもうかがえます。また諦観のようなものも感じられます。
「キットカット」という固有名詞を通して、「ぼく」「ぼくら」の思いが表れた一首です。