GABAチョコは部下の前では食べにくい出してやっぱり鞄にしまう
奥村知世『工場』
奥村知世の第一歌集『工場』(2021年)に収められた一首です。
GABA(Gamma-Amino Butyric Acid)とはγ-アミノ酪酸というアミノ酸の一種で、カカオやトマトや発芽玄米等の野菜・穀物に含まれています。
GABAには、仕事や勉強等による一時的また心理的なストレスを低減する機能があることが報告されています。
例えばグリコのメンタルバランスチョコレートGABAは、パッケージに「ストレスを低減する」と書かれています。
掲出歌はそんなGABAチョコレートについて詠った歌ですが、「部下の前では食べにくい」と詠われています。ただのチョコではなく「GABAチョコ」であるところがポイントです。
部下の前で食べにくい理由は、お菓子が部下の前で食べにくいということではなく、「GABAチョコ」だから食べにくいのです。それはGABAチョコを食べる効果としてストレス低減があるため、仕事上の上司と部下という関係においては、上司の立場としてGABAチョコを食べる場面は見られたくないでしょう。
しかし主体は部下にとっては上司ですが、また一方で自分の上司にとっては部下に当たるわけです。間に挟まれてストレスを感じているときに、GABAチョコを食べたくなり、鞄から出しました。でもやっぱり部下の手前、食べにくいから食べずに鞄にしまったというあたりに、主体の置かれる立場を想像できるのではないでしょうか。
GABAチョコという具体物を取り上げた職場詠として興味深い一首だと思います。