コインチョコを壁にぺたぺた貼っていく遊びがあれば二人でしたい
笹川諒『水の聖歌隊』
笹川諒の第一歌集『水の聖歌隊』(2021年)に収められた一首です。
コインチョコは、その名の通りコインのかたちをしたチョコレートのことで、大抵は金色や銀色の包み紙に包まれています。大きさも一口サイズといったところで、気軽に食べられるチョコレートです。
コインチョコを壁に貼る遊びというのは変わった発想で面白く感じますが、コインチョコを壁に貼るとして、その壁は何もなく平らで広い壁が適していると思います。その壁にコインチョコを一枚ずつぺたぺた貼る二人の姿が浮かんできます。
しかし実際にはコインチョコを貼る行為は想像の中の出来事です。
それは四句の「あれば」によるものであり、そこに注目しました。「コインチョコを壁にぺたぺた貼っていく遊びがあれば」という云い方により、このような遊びがないことが反対に示されているのです。
もしもコインチョコを貼る遊びがあれば、親しいあなたと二人でしたいのだけれど、実際このような遊びはないと示されていて、その願望は叶えられない状況を詠っているともいえるでしょう。
もちろん遊びというものは法律で決められているものではありませんから、自分で「これは遊びだ」と決めてしまえば、どんな行為であっても遊びにすることはできるわけです。
しかし主体はこの点においてやや消極的です。「コインチョコを貼る遊びを二人でしよう」ではなく、「遊びがあれば二人でしたい」というところに、二人で遊ぶことについて、周りの環境や状況、要請に委ねている部分があるように感じられます。このような遊びが定義され一般に広まれば、われわれも行うのだけれどもといった様子が見られます。
ここに主体の行動性や、二人の関係性が垣間見えるようです。
この歌において、結局コインチョコを壁に貼る遊びは行われることはないでしょう。しかし、読み手にとっては、コインチョコを壁に貼る二人の姿が鮮やかに映像として浮かんできて、そのイメージを拭い去りがたい一首になっていると感じます。