円盤のような焼きパン一段と高きところに載せたるパン屋
安藤美保『水の粒子』
安藤美保の第一歌集『水の粒子』(1992年)に収められた一首です。
パンのかたちは一様ではなく、丸いもの、四角いもの、三角形に近いもの、円錐状のもの、細長いものなどさまざまです。
味はもちろん、そのかたちがあれこれとあることで、パンを選ぶときの楽しみが増すのではないでしょうか。
掲出歌は「パン屋」を詠った歌ですが、「円盤のような焼きパン」が登場します。「円盤のような焼きパン」から想像すると、まさに円盤のイメージで割と平たくて、大きさは他のパンと比べてもやや大きめのパンではないでしょうか。
そのようなパンが「一段と高きところ」にレイアウトされていて、それを眺めている場面です。パン屋の中にいてパンを見ていたと採るのが一般的でしょうが、大きなガラス窓のあるパン屋で窓際にパンが並べられている場合は、店の外から店の中にあるパンを眺めていたと採ることも可能でしょう。
「円盤のような焼きパン」ですから、やはり「一段と高きところ」に配置されているのがふさわしいように感じます。このパンはやや大きめで目を引く、この店の人気商品なのかもしれません。「円盤」から想像するに、未確認飛行物体のイメージも浮かび、もしも低い位置に置かれていては飛び立っている感がかなり薄まってしまうでしょう。
“置きたる”ではなく「載せたる」という言葉の選択がとてもよく、このパンが並べられている位置が高い位置であることをより一層表しているように思います。”置きたる”よりも「載せたる」の方が、上方に置いた感じが伝わってくるからです。「載せたる」という表現から、パンを並べたパン屋の人が、「円盤のような焼きパン」の背後にうっすら立ち現れてくるように感じます。
「円盤」という語が「パン」とつながることで、色々と想像がふくらむ愉しい一首です。