鋭角の切断面を鮮やかにさらしてサンドイッチがならぶ
松村正直『駅へ』
松村正直の第一歌集『駅へ』(2001年)に収められた一首です。
最近のサンドイッチは卵、ハム、レタス、チーズ、カツなど、あるいは甘いものなどさまざまなものが挟まれていて気軽に食べることができる一品です。
サンドイッチは、具材を挟んだパンがそのまま出されるというよりも、切断されて提供されることの方が多いでしょう。その方が中の具材が見えて、鮮やかでおいしく感じられます。
さて掲出歌は、サンドイッチの切断面に焦点を当てた一首です。いわれてみると当たり前なのですが、サンドイッチが並べられている状況において、確かにいずれも切断面をさらしています。その切断面が並べられることで、彩り鮮やかになりますし、われわれは切断面を見て瞬時に、これはサンドイッチだと認識している側面もあるでしょう。
鮮やかな切断面が隠れていれば、サンドイッチだと認識するまで時間がかかりそうですし、そもそもサンドイッチの魅力が半減してしまうでしょう。それほど切断面というのはサンドイッチにとって重要な役割を担っていると、この歌は改めて気づかせてくれます。
また初句「鋭角の」と表現しているところから、切断面の鋭さがより一層伝わってくるように思います。三角形に切れば、鋭角と鈍角が発生しますが、これはどちらを上に向けているかという点を表しているのだと思います。鈍角が下側で見えない方に、鋭角となる部分を表側つまり見える側にしているところが窺えます。
角度や切断面がふにゃふにゃでは、やはりおいしそうに思えません。鋭くカットされたところにサンドイッチの輝きがあるように思いますし、並べられた光景はある秩序をもった美しさを湛えているように感じる一首です。