パンの歌 #16

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パンの短歌

ハムレタスサンドは床に落ちパンとレタスとハムとパンに分かれた
岡野大嗣『サイレンと犀』

岡野大嗣の第一歌集サイレンと犀(2014年)に収められた一首です。

ハムレタスサンドを床に落とした場面を非常に丁寧に描くことで、落ちた後の場面がスローモーションのようなスピードをもって読み手に伝わってきます。

改めて「パンとレタスとハムとパンに分かれた」といわれると確かにそうなのですが、ハムレタスサンドが床に落ちたとき、一般的にはこのような思考をたどらないのではないでしょうか。落ちてしまったという事実に目がいき、パンと具がどのように分離されたかはほとんど意識されないでしょう。

このような分離を丁寧に捉えるところに著者の優れた視点があります。そしてこのように表現されることで、ハムレタスサンドが落ちたという状況を読み手はまったく新たな事象として捉えなおすことができるのです。この歌を読んだときに感じる新鮮さがこのあたりにあるのでしょう。

いわれてみれば当たり前なことですが、いわれて初めて気づく、そんな一首ではないでしょうか。

ハムレタスサンド
ハムレタスサンド

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