トースター開けたら昨日のトーストが入ったままでゆっくり閉じる
島楓果『すべてのものは優しさをもつ』
島楓果の第一歌集『すべてのものは優しさをもつ』(2022年)に収められた一首です。
トースターはその名の通りトーストをつくるためのものですが、そのトーストができあがった直後に食べることができない何らかの理由があったのかもしれません。
別のことをしていてトーストをつくっていたのを忘れていたのか、誰かに呼び出されて食べる時間がなかったのか、あるいは自然災害といった緊急事態が発生したのか。他にも理由は様々考えられますが、いずれにしてもトースターの中には昨日のトーストが入ったままだったのです。
それを発見してしまった瞬間、見なかったことにしようという状況が、結句の「ゆっくり閉じる」にとてもよく表れていると思います。
トースターの蓋を閉じたところで、中のトーストが消えることはありませんが、一旦見なかったことにしたい気持ちはよくわかるのではないでしょうか。
トーストはやはりできあがった直後に食べるに限ると改めて感じました。時間が経つほどに味は衰え、翌日ともなればとても恐ろしいものに変化してしまい、いいことはありません。トースト一枚を詠った歌ですが、そんな一枚からあれこれと想像させてくれる一首だと思います。