食パンを山と麓に切り分けて夫婦二人のサンドイッチ成る
鯨井可菜子『アップライト』
鯨井可菜子の第二歌集『アップライト』(2022年)に収められた一首です。
食パンはその形から大きく二つに分けることができます。
それは「山型」と「角型」です。
店でよく売られている長方形や直角三角形の形のサンドイッチの場合は、角型が適しています。四方の長さが同じであるため、サンドイッチにしたときに形が整いやすいでしょう。
掲出歌は「山と麓」と表現されていますから、山型の食パンを切り分けたと読みたいと思います。山型の上部分を「山」、下部分を「麓」というふうに呼んでいるのでしょう。
山と麓に切り分けるまではわかるのですが、その後どの部分とどの部分を重ね合わせてサンドイッチにしたかが実ははっきりとしません。
山の部分と麓の部分に分けて、その間に何か具材を挟み込んで、サンドイッチにしたということでしょうか。食パン一斤を単純に二つの部分に切り分けたとなると、かなり厚手のパンで挟み込んだことになります。もしくは、食パンを一旦スライスしておいて、それぞれを山の部分と麓の部分に切り分けて、山と山、山と麓、麓と麓というようにサンドイッチしたのかもしれません。
最終的なサンドイッチの大きさや形状はそれぞれ読み手の想像に委ねられるように思われますが、この歌はやはり上句がポイントで、「山と麓」に切り分けたというところが見どころではないかと思います。
そしてそれは夫婦二人のためのサンドイッチになったというところに、二人でいることの何気ない幸せのようなものを感じさせてくれます。
二分法と夫婦。食パンの分割と重ね合わせ(サンドイッチ)、そして夫婦という組み合わせまで、二という数字がキーとなっている一首ではないでしょうか。