パンの歌 #13

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パンの短歌

蒸しパンをちぎったあとの指先を押し付ける、わけでもなく触れる
笹川諒『水の聖歌隊』

笹川諒の第一歌集水の聖歌隊(2021年)に収められた一首です。

ただの指先に比べて、「蒸しパンをちぎったあとの指先」にはどこかしら柔らかな印象を抱きます。

それは蒸しパンをちぎるという行為に因るのかもしれません。蒸しパンは大抵柔らかなものですから、蒸しパンをちぎる場合、どうしてもやさしく、やわらかく、丁寧にちぎることになるのではないでしょうか。乱暴にちぎるというのは、どうも蒸しパンをちぎる場面にそぐわないように思います。

ですから、「蒸しパンをちぎったあとの指先」は、蒸しパンをちぎる前の指先に比べて、やさしく、そしてやわらかくなったように感じるのです。

そんな指先ですから、「押し付ける」のではなく「触れる」のが適っているのでしょう。一体何に対して、あるいは誰に対して「触れる」のでしょうか。

それは、この歌だけでは限定はできません。

この歌は「青いコップ」という一連の中の歌ですが、この一連には「あなた」と呼ばれる存在が何首か登場します。したがって、「触れる」のはひょっとすると「あなた」かもしれません。やさしく、やわらかい指先は「あなた」に触れるのに、適しているのかもしれません。

「蒸しパンをちぎったあとの指先」であるからこそ、触れたとき、そこに通常では生まれないであろう新しい感情が現れるのではないでしょうか。

蒸しパンをちぎるというひとつの行為からやさしいイメージが膨らみ、魅力的な一首だと感じます。

蒸しパン
蒸しパン

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