パンの歌 #12

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パンの短歌

好きそう、とあなたが買ってきてくれるパンことごとくわんぱくなパン
toron*『イマジナシオン』

toron*の第一歌集『イマジナシオン』(2022年)に収められた一首です。

最近は、おしゃれなパン屋が街中に増え、テレビや雑誌などで特集が組まれることも多くなったように感じます。オーソドックスなパンから、アイデアあふれるパンまでいろいろなパンが売られています。

さて、掲出歌に登場するのは「わんぱくなパン」。「わんぱくなパン」という表現がとても魅力的です。「わんぱく」と「パン」は日常会話では通常組み合わせることのない言葉だと思いますが、「わんぱくなパン」といわれると妙に納得し、一度聞くと忘れられないフレーズです。

そんなパンは「あなた」が私に対して「好きそう」だよねと思って買ってきてくれるパンなのです。

ここでは主体が「好き」なパンではなく、「好きそう」なパンというところがポイントでしょう。つまり「あなた」から見た主体のイメージが、パンを通して語られているのです。「わんぱくなパン」と主体のイメージが重なって見えてきます。

「ことごとく」という一語も見逃せず、この一語があることで、例外なく「わんぱくなパン」であること、そしてそのイメージが主体へ続いていることがみてとれます。

主体の、あきれているような、うれしいような、さまざまなに入り交じった感情を感じてしまいますが、二人の間の関係性は悪くはないでしょう。

関係性の示唆としても、言葉そのものとしても、「わんぱくなパン」が活きた一首だと思います。

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