パンの歌 #11

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パンの短歌

パンを触る前に石鹸で手を洗う土曜は生きているって思う
上坂あゆ美『老人ホームで死ぬほどモテたい』

上坂あゆ美の第一歌集老人ホームで死ぬほどモテたい(2022年)に収められた一首です。

次のような場面を想像しました。

会社勤めをしていて、日曜がお休み。土曜日は半日勤務かもしれませんし、一日勤務かもしれません。仕事が終わって大好きなパンを食べようとしている場面です。

このケースにおいて、会社勤めを憂鬱だと感じたり、楽しくないと感じたりする場合、週の中で一番気持ちが楽になる日は何曜日でしょうか。

それは、明日が一日休みである前の日、つまり土曜日ではないでしょうか。明日は会社に行かなくていいと思うと、気が楽になります。日曜日は、明日また会社に行かなければと思うと心から休めないでしょう。

そのような状況が「土曜は生きているって思う」という表現となって表れていると感じます。

食べる前に手を洗うのは、昨今の新型コロナウイルスの流行においては、より一層気をつけなければならない習慣となりました。

この歌において手を洗うということは、もちろん感染予防という意味もあるでしょうが、それよりも明日が休みであるという土曜において、一週間の憂鬱な会社勤めを終えたという、ある意味儀式めいた部分を感じます。つまり、手を洗うことによる精神の浄化のような印象が滲んでいるように思います。

土曜日に、そしてこのような手を洗うという行為の後に食べるパンはさぞかしおいしいものなのではないでしょうか。何よりも「生きている」と感じられること、それは本当にすばらしいことだと感じます。

パン
パン

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