空白の歌 #12

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空白の短歌

吾のごとき沙よりちさきいきものも空白感は鯨のみこむ
渡辺松男『雨る』

渡辺松男の第九歌集(2016年)に収められた一首です。

ここで登場するのは「沙よりちさきいきもの」と「鯨」です。

「沙よりちさきいきもの」とは何でしょうか。「鯨」と比較すると「沙」も相当に小さいと思いますが、その「沙」よりも小さい生き物を指しているようにも思いますが、具体的には述べられていません。

しかし注目すべきは、初句の「吾のごとき」です。「吾のごとき沙よりちさきいきもの」という表現は、「吾」を引き合いに出して「ちさきいきもの」を表しているのですが、この歌でいいたい「ちさきいきもの」とは、実は「吾」そのものではないでしょうか。

それはその後に続く「空白感」という言葉からそう思われます。「空白感」を感じる生き物は何でしょうか。人間以外にも「空白感」を感じる生き物はいるかもしれませんが、「空白感」があるかないか、また感じているか感じていないかがわかるのは、自分自身だけではないでしょうか。人間同士でも他者の「空白感」の有無を簡単に判断することはできないと思います。

そう考えると、ここでいう「空白感」をもつ「ちさきいきもの」は、何か別の生き物を指しているのではなく、「吾」そのものを指しているとした方が無理がないように思います。

つまり「吾」の「空白感」はとてつもなく大きくて、「鯨」を飲み込むほどだということでしょう。「沙」「ちさきいきもの」と「鯨」との対比が鮮やかで、「空白感」の大きさが生き物の登場によって巧く表現されているのではないでしょうか。

上句は、より直接的に”沙よりちさき吾”といういい方はできるでしょう。しかし、あえてそうせず「吾のごとき沙よりちさきいきもの」と表現したところに、本筋としては「吾」そのものを指しているのだけれど、「吾」を含む「いきもの」全体への広がりを感じさせて、窮屈さを感じさせない歌になっていると感じます。

「空白感」について考えさせられる、とても印象に残る一首です。

鯨
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