今日という日もまた栞 読みさしの人生という書物にすれば
萩原慎一郎『滑走路』
萩原慎一郎の第一歌集『滑走路』(2017年)に収められた一首です。
人生を「書物」に、そして今日を「栞」に喩えた歌で、長い時間を見つめる目と、短い時間を見つめる目を同時に感じます。
「書物にすれば」は、書物にしてみればといった意味合いでしょう。
人生を一冊の書物として喩えた場合、生きていくということは、その本が終わりを迎えるまでは常に「読みさし」の状態にあるわけです。
そして「今日という日」は、読み進めてきたところ、つまり栞が挟まれているところに位置しているでしょう。昨日が終われば今日がやってくるように、栞は日々少しずつ進んでいきます。
全体として、ゆったりとした詠い方が心地よく感じます。「今日」ではなく「今日という日」、「また」の挿入、一字空け、「人生という」の「という」のあたりに、そのゆったりした感じが表れているのではないでしょうか。
この歌からは、人生に対する情熱のようなものは感じませんが、同時に極端な諦念のようなものも感じず、どちらかというと人生を冷静に見つめている様子が窺えます。
いいかえると、人生を俯瞰する視点から詠まれた歌なのだと思います。このようにやわらかく今日や人生を捉える見方に好感がもて、語の選択や順番も相まって、ゆったりとした詠いぶりが感じられ、印象に残る一首です。
歌人 萩原慎一郎 公式サイト
いかなる逆境にも立ち向かい、自らの想い、今を懸命に生きる人々の輝き、恋、小さな幸せを短歌で表現した天才歌人、萩原慎一郎の軌跡。