「時間」にはこまごま記憶がたたまれてどのひとつにも悔いが添ふなり
池田はるみ『亀さんゐない』
池田はるみの第七歌集『亀さんゐない』(2020年)に収められた一首です。
「歳月と時間」という一連の歌ですが、この一連の中で「時間」と「歳月」の語の一部には鉤括弧がつけられています。掲出歌も「時間」が鉤括弧で括られていて、この一連のタイトルを強調する意味合いが濃いかと思います。
この歌では「時間」と「記憶」の関係性が述べられていますが、時間には記憶がたたまれているという表現がとても面白いと感じます。
「時間」とは流れていくものとして捉えるのが一般的だと思いますが、その時々の時間には「こまごま記憶がたたまれて」いるというのです。時間というものに記憶が収納されているようなイメージが浮かびます。
そしてその「記憶」の「どのひとつにも悔いが添ふ」と続きます。
得てして記憶というものは、後悔したことほど覚えているものなのかもしれません。自らを振り返ってみても「どのひとつにも悔いが添ふ」に妙に納得感があります。
生きるということは時間を積むことであり、時間を積むことは記憶を重ねることであり、その記憶には後悔がつきまとうということなのではないでしょうか。
しかし、そのような悔いを含んだ記憶を積み上げていくことが人生そのものだともいえるのです。後悔を嘆くよりも、生きるとはそのようなものかもしれないと思い至ったとき、生きてきた時間の長さと厚さを感じることができる、そんなことを感じる一首です。