誰ひとりきみの代わりはいないけど上位互換が出回っている
宇野なずき『最初からやり直してください』
宇野なずきの第一歌集『最初からやり直してください』(2017年)に収められた一首です。
「上位互換」とは、機能や性能で上位に位置づけられる製品が、下位の製品と互換性をもつことを意味し、互換性が確保された上で、より優れた機能も使える性能をもつ状態を指す言葉です。ソフトウェアなどコンピュータに関連する用語として使用されることが多いでしょう。
掲出歌は、その「上位互換」という言葉を人間に対して当てはめた鋭い一首です。
「誰ひとりきみの代わりはいない」というのは、よく聞くフレーズであり、ひとりとして同じ人間はいないということを意味していると思います。それぞれ違う面をもっているのが人であり、そのそれぞれの特徴は優劣で測るのではなく、個性として捉えていき、大切にしていこうというのはよくわかります。
しかし、現実はどうでしょうか。
人との関わりの中で生きている以上、どうしても優劣で見てしまうこともあるでしょうし、優劣で判断されてしまうこともあるでしょう。
例えば仕事に関係する能力だけを見た場合、自分ができることはもちろんすべてできて、プラスアルファで優れた能力をもっている人というのはこの世の中に少なからず存在するのではないでしょうか。
それはスポーツ、芸術、収入、勉強、恋愛など、あらゆる面において適用可能な状態でしょう。
このような状態を「上位互換」という語ひとつで、この一首は的確に表現しているのです。
製品の場合、通常後発品は先発品よりも上位に位置するので、後発品が上位互換となります。インターネットが普及して以降、情報という面で見ると、昔とは比べものにならないくらい効率的に収集および活用することが可能な時代となっています。
人に当てはめると、後で生まれた人は、より早い段階から最新の技術の恩恵を受けることができるため、どうしても上位互換になるような流れにあるのかもしれません。
もちろん技術的な面や、情報の収集や活用だけがその人個人をかたちづくるすべてではありませんが、ある分野に特化して見た場合、人に対しても上位互換という状態は避けようがないようにも思います。
ひとりひとりのもつ特徴の大切さはわかっているけれど、上位互換のこの現実をどのように受け入れていけばいいのか、それに対する疑問や心の揺れのようなものをも考えさせられる一首だと感じます。