〈流線型ヘルメット頭に乗せてくる自転車部隊のやうなこどもたち〉という巻頭歌で始まる、池田はるみの第七歌集は何?
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『亀さんゐない』
『亀さんゐない』は2020年(令和2年)に出版された、池田はるみの第七歌集です。2015年(平成27年)から2020年(令和2年)までの作品479首が収録されています。
歌集名は次の一首が基になっています。
くすのきの下に来たれどこのところ亀さんゐないありんこばかり
あとがきによれば、「亀さん」とは老人の手押し車にすがるように歩いていた人で、著者は童話に重ねながら心の中で「亀さん」と呼んでいたようです。そんな「亀さん」に対する心寄せが、歌集名に表れているのです。
本歌集には、六十代や七十歳といった具体的な年齢の数字が登場しますが、自分の年齢に向き合う姿が自在に詠われていると思います。
そして自分の年齢に対比するように孫を詠った歌も多く見られます。また著者が愛する相撲の歌も見られ、新型コロナウイルス感染症が流行してからは、その関わり合いの中で詠われています。
本歌集の歌は、日常のちょっとした出来事が歌になる喜びを感じさせてくれると思います。また選ばれている言葉も、堅苦しい言葉だけでなく、ゆったりとした言葉の膨らみを感じるものが多いのも印象的です。
読み手が身構えることなく、すいすいと読み進むことができ、すぐに歌の世界へ入ることができる一冊ではないでしょうか。
歌が力んでいないところ、いってみれば力の抜け具合が絶妙で、読んでいてとても心地よく感じます。
2021年(令和3年)、本歌集にて第19回前川佐美雄賞受賞。
『亀さんゐない』から五首
自らのおよぼす力のすくなきを解放といひ無力ともおもふ
ひとり来てなにかを思ひ帰りゆくさういふ場所がわたしにもある
束縛のなき一日はみづからをほどいてをりぬ陽に干さむため
なわとびもかけつこも疾く抜かれたり抜かれぬ干支はなかなかよろし
相撲つて裸で濃厚接触のスポーツなれど歴史は深い